輸出工場の1年
2005年の国内事情の統括はまだ終わらない。
1月早々、ブラジル・サッカー連盟CBFが2005年の海外移籍統計を発表した。
昨年は総数、878人の選手が海外に移籍した。2004年の857人を上回る過去最高の数字だそうだ。
878人といえば、一日に2.4人が海外へ出て行く。
チーム数でいえば、23人制で計算して、38チーム分が丸々出て行った。
そのかわり、487人が海外から戻ってきたから、つまり差し引いて、実質391人居なくなったことになる。
移籍先はポルトガル(129人)、日本(37人)、イタリア(26人)を筆頭に、カザフキスタン、モルダビア、ハイチ、ジョージア、サイプロス、ベトナムといったプロサッカーがあるのかどうか、分らない国にまで移籍している。北朝鮮に移籍しているのかどうかが、まだ分らない。
このことから分るように、海外に移籍するのは何もトップクラスの選手だけではない。ブラジル国内で日の目を浴びない選手が、地球儀のどこにあるかも分らない国にチャンスを求めて旅立っていく。なかには、詐欺にだまされて、約束の収入ももらえず、帰国もままならないケースもあると聞く。
しかし、このダイナミズムは凄まじい。日本のJリーグファンには納得できないことも多いと思うが、海外チームと契約しては3ヶ月で破棄し、ブラジルへ帰国、さらにその後3ヶ月ほどで、また海外へ移籍する。代理人も大忙しだ。
いま南米の他国では、ブラジルサッカー市場を目指して移籍がさかんに行われているという。パラグァイ、ボリビア、チリ、ウルグァイ、コロンビアなどの選手が、品薄になりがちなブラジルサッカーのトップチームに移籍し、そこから海外移籍を狙うという。
昨年のブラジル選手権ベストイレブンを見ても分かるように、コリンチャスンのテヴェス、サンパウロFCのルガーノなどはブラジルでプレーして更に市場価値が上がったいい例だ。この傾向はこれからも更に強まっていくという。
有望なブラジル人選手だって、うじゃうじゃ出てくるが、国内で実績を残す前にたったと売られていく。ペレ・スポーツ法が制定されてから、ブラジル人選手は23歳になると、出身クラブと契約満期となり、移籍金なしで好きなクラブと契約してもよい。だから、海外から好条件でオファーのあった20代前半の原石の卵は、クラブ側が(安っぽい)移籍金を請求できるうちに移籍させるのである。この話題は、一冊の本になるほど複雑だ。
はじめのころ、ピーピー言っていたクラブ側だが、いまではトップチームの運営とは別に、ユース世代を含めたトレーニング・センター(CTという)の設立・拡張を相次いで行っている。とくにサンパウロ州のビッグクラブのサンパウロFC、コリンチャンス、サントスはここ2年で巨大な練習場を新築したことを誇らしげにアピールしている。パルメイラスだけが、遅れながらCTの拡張を急いでいる。
サンパウロ州だけでない、全国のクラブもトップチームとユース世代が一緒に練習できるCTの建設・拡張を急いでる。いかに優秀な若手選手を育て、次から次へと海外へ移籍させ、クラブ財源を保つかが、運営面で重要になってくる。
この新しい潮流に乗り遅れているのが、またしてもリオのクラブだ。リオのサッカースタイルは相変わらず美しいが、偶然かもしれないが、近年は大物新人があまり出てこない。
どのクラブもトップチームの運営はどうなるんだ?選手層がスカスカだろう?と心配になるところだが、たとえばサンパウロFCなどは、ちゃっかりクラブ世界選手権を優勝してしまうのだから、いかに人材がまだ豊富かを証明している。即戦力が必要であれば、選手を海外から戻すか、南米諸国の選手を引っこ抜く。
どうせ、ひとつのユース世代の全員をトップチームで起用はできない、海外や国内移籍ありきで有望選手を育てる、選手に移籍の機会がなければ、そこで契約を延長してトップチームで使えばいい、といった発想か?「この選手は将来我がクラブを背負っていく才能だ」といった欧州や日本の発想はもともと無いはずだろう。
「こんなサッカー事情の国で仕事するのは大変だぜよ、たとえマテウスといえどもウンザリするのではないか?」とマテウスのアトレチコ・パラナエンセ監督就任後の成功を疑問視していたのは、パルメイラスを建て直している最中のレオン監督だった。
レオン監督は昨季ヴィッセル神戸解任後(あれは、何だったの?)、パルメイラスに就任し、どのようなトレーニング場(CT)を建設すれば良いのか、トレーニング場にはどのような運動マシーンを入れれば良いのか、といった細部まで、運営上の指揮をとっているらしい。チームの戦術だけを指揮するのがブラジルのトップ監督の仕事ではない。パルメイラスは全国選手権を4位で終了し、今季のリベルタドーレス杯に出場する。
これが、昨年完成したサントスの新しいCT