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PostHeaderIcon 忘却のクラッキたち

人々はなぜ、過去のクラッキたちと、今のクラッキたちを比べたがるのだろう。
過去はクラッキたちの宝庫だ。
ただ、本当に彼等と時代をともにし、彼等を愛し、そのプレーに心酔したなら、彼等を格付けする必要もないだろうに?と、あっしは思う。
これはまた、ブラジルの“サッカー伝統主義者”たちの意見であり、その考えを代表するコラムニストの一人がオ・グローボ紙のフェルナンド・カラザンスである。
そこで、今回は、勇気を出して彼のコラムの一部を翻訳してみた。ただ、著作権に触れるから、引用という形で、全文は掲載できない。向うのサッカー・ライターの考えに触れるいい機会だと思う。


オ・グローボ紙2006年4月21日、「フェルナンド・カラザンス・コラム」
“…
今また、人気プレーヤーたちを過去のスーパースターたちと比較するという趣向が再熱している。現在のプレーヤーたちが大活躍していようが、それほどでもなかろうが、とにかくペレとマラドーナと比較してみる、という趣向だ。しかしまあ、比較といえば、尺度となるのは決まって、この二人だ。彼等以外に存在した、何十人という過去のスーパースターたちはどうなるのだろう、サッカーの歴史のなかで葬り去られていくのだろうか。
そうだ、過去の無数のクラッキたちは忘却の運命をたどっている。いとも簡単に、まるで存在しなかったかのように、そのプレーで人々を興奮させたことなど無かったかのように、世界中のサッカーファンの記憶の中から彼等は消えていくのだ。人々が知るのは、ペレとマラドーナ、この二人だけ。そして、今日の人気プレーヤーたちは、この二人と比べて、どのレベルにあるのか、それだけが重要になってくる。サッカーという巨大な宇宙は、進化の末、この二人の存在だけに集約されてしまった。百年以上の歴史のなかで、二人のクラッキしかいない:ペレとマラドーナ。
もちろん、この二人は文句なしのタレントであった、だが、彼等にだけ議論を限ってしまうことは、実は、サッカーの歴史を短絡的にし、貧しくしている、と考えることはできないだろうか。この二人を基準にサッカー史を語ろうとする人々は、過去の名選手を葬っただけはなく、サッカーの歴史そのものを抹殺しているのではないだろうか。
プシュカス、ディ・ステファノ、(ホセ・マヌエル)モレーノ(注:40年代、50年代のアルゼンチン人プレーヤー)、ジジーニョ、レオニダス・ダ・シウバ、ガヒンシャ、ジジ、ニウトン・サントス、スタンリー・マシューズなどなど、彼等すべてはサッカーファンの記憶から消え失せようとしている。残るのはただ二人、ペレとマラドーナのみ。それと、彼等に挑戦しようとする、その時々のニューカマーズだけだ。なぜそうなる?なぜなら、ペレとマラドーナは議論の余地のない天才だったから、と人々は言う。でもそれなら、ガヒンシャとディステファノの二人も議論の余地のない天才だった。彼等を互いに比較するまでもない。
せめて、国内に豊富なサッカー史を誇る我々ブラジル人だけでも、こんな短絡的な比較は避けたいものだ。だいたい、ペレとマラドーナを同レベルと見なすこと自体、どうかしている。しかし、現実には、我々もいやおうがなしに、このワールドワイドな流行に引きずり込まれてしまっている。
その流行の発端となったのは、他でもない、彗星のごとき台頭してきたロナウジーニョ・ガウショだ。もちろん、ロナウジーニョはサッカーのために素晴らしい貢献をしてくれている?ゲームに、あの芸術性をまた取り戻してくれた。しびれるように楽しい、微笑みのサッカーを。
いまや、荒々しく、むっつり顔をした男達で競われるサッカーで、ロナウジーニョは笑う。笑いながら美技を繰り返し、観客そして相手選手までをも虜にしてしまう。
ただ皮肉なことに、本人は最善を尽くしているものの、知らないうちに、歴代のスーパースターたちを追いやるのに一役を買ってしまった。いま、サッカー史に存在する天才は3人だけ。一人目は、もちろんロナウジーニョ、彼がいなければ過去との比較が成り立たない。次にペレとマラドーナの二人。その理由は何か、それは比較する人々の「無知」だ。この3人の範疇に議論をとどめる人々は、実は、この3人しか観たことがない、または聞いたことがない、または崇拝したことがない人々だ。彼等の前に存在した天才たちのことは、まったく知らない。
先日、35歳のカフーが、インタビューでサッカー史に残る大スターについて語っていた。そこで出てきた名前は、もちろんペレとマラドーナ、それに驚くことに、ディ・ステファノの名前も加えた。模範的な歴史への配慮だと言えなくもないが、しかし、なぜディ・ステファノなのだろうか。カフーはいま35歳で、ディ・ステファノを観たはずはない。ひょっとしてディ・ステファノのDVDか、記録テープを観たのだろうか?
そもそも、カフーにとって、ディ・ステファノでなくて、ガヒンシャやジジーニョでも良かったろうに。なぜなら、本当は彼はこの3人のうち、誰一人も観ていないのだから。
はっきりって、彼はマラドーナの前に存在した天才たちの誰一人も、観ていないはずだ。だから、カフーがサッカー史に残るプレーヤーたちの名をあげること事態、ナンセンスなのだ。
これこそが、最も重要なポイントだ。いま生きている我々のなかで、誰が歴代の天才たちを比較できるほどの見識の持ち主なのだ?読者のなかで、誰かジジーニョを観たことがあるだろうか?私はない。でも、ペレは、ジジーニョこそが彼にとって最大のアイドルであり、師匠だった、と認めている。それに、レオニダス・ダ・シウバ(バイシクル・シュートの生みの親)を観た人達は、彼はペレに劣らないほどの天才だった、と口を揃えて言う。天才は何人いるのか、さあ数え直してみよう。
これからも、人々は今の選手たちを過去のスーパースターたちと比較していくだろう。それはそれで面白いことであり、議論は大いに盛り上がりを見せるに違いない。だが、その実は、こういった比較こそが、素晴らしく豊富なサッカーの歴史を、逆に小さくしてしまっていることを、忘れてはならない。
…”

過去のクラッキたちを知っていなければ、格付けできない。
知っていれば、誰が誰より上手かったか、など考える必要はない。
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648 Responses to “忘却のクラッキたち”

  • ヒロ says:

    確かにペレとマラドーナの比較は日本の雑誌でも多いですね。
    それこそペレ2世、マラドーナ2世は有望な若い選手がでるたび(笑)
    2世とつけることでイメージではすでに下になってしまっているのに・・。
    それは選手にとってもあまりいいことじゃないし余計なプレッシャーをかけるだけだと思います。
    まあ試合過多もあっておもしろい試合に出会う確率は減ってきているんですけど、未だに魅了するテクニシャンは生まれてますからアル部分では安心しています。
    今月はイタリアで重大な事件が起きたんですけどこれによってサッカー界が内容を重視した部分が大きくなれば良いなぁなんて思ってます。

  • フッチブログ says:

    ヒロさん、
    そう、なんでもかんでも「ペレとマラドーナ」。
    たしかに、いまサッカーファンでペレを見た世代というのは、最低でも40代。
    つまり、日本なんかでは、サッカー関係者以外、この世代では、殆どいないスね。だから、おかしい、ペレと誰かを比較するのは。それに、マラドーナ崇拝者が圧倒的に多いのも理解できる。
    日本で成り立つのは「ロナウジーニョはマラドーナと同等か?」という議論ぐらいでしょう。
    ただ、忘れられるのは、過去のクラッキたちだけでなく、いま現役のスーパースター、ロナウドだって、もうそうみたい。つい、こないだまで、世紀のスーパースターみたいに祭り上げられていたのに、それにジダン、フィーゴたちも。
    結局、新しけりゃ、なんでもいいのか?となる。メッシはすでに、マラドーナと比較されちゃってるし。
    まあ、あっしは、この議論には距離を置きます。

  • あるまじ says:

    カラザンス氏、ん?、なかなか味わい深いですねぇ。
    以前どこかのエントリーで引用していた
    「ロナウジーニョは自分のプレイを飾りつけようと不必要に気を使ってる」
    みたいな辛口発言も、「んー、たしかに。。ごもっとも。。」
    と思わざるを得ないところありましたねー。
    あと、フッチさんが時々引用してくれるトスタン様の数々のご発言が、
    ほんと深いというか頷かずにはいられないのですが。。。
    原文を読みたいところですが、さすがにポルトガル語は難しいので、、
    これからも紹介・引用楽しみにしておりますです。

  • フッチブログ says:

    あるまじサン、どうも。
    >「ロナウジーニョは自分のプレイを飾りつけようと不必要に気を使ってる」
    たしかに、ありましたね。でも、あれからジーニョも随分進化したと思うのですが。なんといっても、プレーのレベルが常に落ちないのがすごい。
    カラザンスとトスタンは、あっしの羅針盤ですね。他にも、掃いて捨てるほど良いコラムニストがいるには、いますが。やっぱ、彼等のこうした批判精神のおかげで、風通しは良いですね。
    いまは、絶好調のブラジルサッカーですが、一時は、ほんとカラザンスのコラムとか読まないと、やっていけない時期がありましたね(2000年、01年とか)。

  • Goaly says:

    Ola.
    Inter負けちゃいましたね・・・・。
    次ホームでの試合ですけど、CorintiansのアウェーでのRiverとの試合によく似てたのでなんか怖いですよ。
    ホントうるさいほど比べますよね。
    「RonaldinhoはPeleを超えたか?」というの1ヶ月に何回も聞きますよ。
    正直“比べようがない”ですよね。
    まずサッカー自体が今と昔で全然違うような・・・・・。
    確かにPeleがプレーしてる所を知ってる人少ないですし。
    “今”のサッカーを見てる人はRonaldinhoをみてるわけで。
    上で「・・距離を置きます。」って書いてありますが、こういうのは言わせておいたほうがいいかもしれませんね。
    ちなみに自分がその質問を受けたとするなら「Ronaldinhoのほうが上だ」と言いますよ。
    だってPeleの試合はビデオでしか見たことないですから。

  • フッチブログ says:

    Goalyさん、
    Interはまだホームが残っていますから、どうなることやら。
    この議論は、まあ…とくにブラジル人にとっては、どうでもいいことですわ。
    なんで、ロナウジーニョをヨイショするのに、他の名選手たちを格下げしないといけない?っちゅう、ことっす。

  • ヒロ says:

    テレビのワールドカップの特集でロナウジーニョが「(いつも意地悪な比較論を言われることに対して)たまに何かにぶちまけたくなるよ」と語っていました。
    ロナウジーニョのインタビューは常に注目しているんですが、いつも「過去の偉人と比較される事は光栄だ」など紳士な対応をしていました。
    それだけにこの時の強張った顔にはちょっとビックリしましたね。
    凡人には分からない凄まじいプレッシャーが比較される彼らにかかっていたのかと。
    これは見る側の多くがその情報を欲しているからそういう質問になるわけで考えさせられるインタビューでした。

  • フッチブログ says:

    ヒロさん、
    >それだけにこの時の強張った顔にはちょっとビックリしましたね。
    そうなんですか、まあ、ロナウジーニョもわかってますから、いま彼の名を絶えず叫ぶ人々も、彼が少しでも調子を落とせば、ソッポを向いて、他の選手の名前を呼び始めることを。
    選手はそんな比較論で有頂天になるほどバカじゃない。

  • ううい says:

    ロナウジーニョって誰ですか?

  • フッチブログ says:

    さあ、誰ですかねえ?

  • ニューカマーズ

    今日はニューカマーズ 関連ブログ紹介します。それぞれのブログにもぜひ訪れてくださいね!

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