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PostHeaderIcon 母国からの賛辞

ブラジル・サッカーのことを知ったかぶりで書いていると、たまに目からウロコが落ちるような教訓を得ることがある。
サンパウロFC×リバプールの試合を観にいったきっかけで、フットボール好きのイギリス人と知り合いになった。
そのイングリッシュマンは40歳代なのだが、サッカーのことをよく知っていた。それも、ブラジル・サッカーのことをかなり知っていた。


あっしのイングランド・サッカーに対する批判など知る由もない紳士的な彼は(フーリガンでなくて良かった)、数年前、ブラジル全土を旅したことを楽しそうに語ってくれた。念願のリオのマラカン・スタジアムで試合を観たことも誇らしげに話していた。
イギリス人がブラジル・サッカーを好むのは、ある程度、理解していたが、サッカーの母国でプレーされるスタイルとかなりかけ離れていることにギャップがあると思っていたのだが。
そんなことを考えていると、今週、オ・グローボ紙にイギリスの伝説的なフットボール・ジャーナリスト、ブライアン・グランヴィルの興味深いインタビューが載っていた。
73歳のグランヴィル氏はW杯12大会(全18大会)を生で取材し(!!!)、いまでも「World Soccer」誌などで執筆し、日本でも、下の著書などで知られる。
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9975861091
インタビュー内容を抜粋するが、非常に辛口でありながら、かなりブラジル通だということがわかる。なんといっても、50年以上のキャリアによる奥深いパースペクティブを感じ取れる。
「まず、次のW杯で、ブラジルがカップを掲げるのを妨げる力のあるチームは見あたらない。順番でいえば、ブラジルの次にイタリアが良いチームを作っていると思う。とくにネスタとカンナバロという素晴らしいDF陣と中盤のガットゥーゾ(注:オエッ)、ピルロ、トッティといったスタイルの違うメンツが上手く噛み合っている。ドイツはバラックを除いて二流のプレーヤーばかりだ。アルゼンチンはディフェンスが力不足。フランスはジダンの低迷が響いているし、アンリは予想以下の活躍しかできない。我らイングランドの問題は監督だ。エリクソンは二流の監督で、チームにプレー・バリエーションというものを与えることができない。02年W杯のブラジル戦でロナウジーニョが退場になり、数的有利になったとき彼は何をしたか?何もできなかった」
「いまの32チームで競われるW杯は、78年までの16チームで競われた形と比べると面白さも半分に薄まっている。W杯は強いチーム同士が激突するのが面白いのだ。なぜアジアの国にあれほどの出場枠を与えるのか?02年W杯に参加した中国などは世界中に失態を晒した。すべては拡張路線を進んだアベランジュ元会長の功罪だ。それに、2010年のW杯を南アフリカで行うのは失敗だ。W杯といった地球最大のイベントを開催する能力は、残念ながらアフリカ大陸にはまだない」
「私がブラジル代表チームにお願いしたいのは、ヨーロッパ・チームのようにプレーしないでくれ、ということだ。02年W杯のチームなどは、まるでヨーロッパのどこかの国のチームのようだった。ブラジルの選手たちはタクティクスに気を取られてはならない、彼等にこそ楽しくサッカーをする能力が備わっているというのに。彼等にはタクティクスを破壊する個人能力を期待する。良い例は1958年のセレソンだ。あのセレソンのことは、当時、私も熱心に取材した。いまのセレソンも非常に魅力的だ。」
「史上最高のセレソンといえば70年W杯のセレソンだ。いや、あれはW杯史上最高のチームだった。あのチームの唯一の欠点はGKだったが、そんなことはどうでも良いほど素晴らしかった。でも、私のなかでのW杯史上ベストイレブンを選ぶとき、70年セレソンからはペレしか選ばれない。あとは、ジャウマ・サントス、ニウトン・サントス、ジジそしてもちろんガヒンシャの5人のブラジル人選手を選ぶ」
とまあ、この人はめちゃくちゃセレソン通だ。とくに最後の「ペレ、ジャウマ・サントス、ニウトン・サントス、ジジ、ガヒンシャ」はいずれも58年メンバーであるが、この5人について検証できる外国人記者は稀だ。
いま、ブラジルサッカーの最大の問題、ヨーロピアン・タクティクスを取り入れすぎたことを指摘していることも、目からウロコだ。(このことについては、今月のナンバー643号のソクラテスの記事が面白い)
さらにイギリスでは、12月24日、クリスマスイブの日にラジオ局BBCの番組Five Liveで3万人リスナーに行われたアンケート「Greatest Team of All Time(史上最高のチーム)」で、サッカー以外にラグビーや、クリケットや、様々なジャンルのチームとの比較で、70年W杯ブラジル・チームが1位に選ばれた。
http://www.bbc.co.uk/fivelive/sport/greatestteam/
驚いたのはイギリス人の歴史に対する理解度というか、35年前のセレソンを覚えていること(poetry emotionなチームだそうだ)、次いで2位には70年、80年代のリバプール、3位には50年代のレアル・マドリードと、どれも現在のサッカーとは関係の無いチームばかりだ。19位には50年代に存在したプシュカス率いる幻のハンガリー・チーム(Magical Magyars)も入っている。
イギリス人の伝統に対する敬意、時に流されない感覚に感服する。
こうした、世界中の人々のセレソンに対する気持ちを知るとき、06年W杯のチームはたとえ優勝できなくても、記憶に残るチームになってほしいと願うばかりだ。
1958年W杯を優勝したセレソン
brazil1958.jpg
上段左から、監督:ヴィセンテ・フェオラ、右SBジャウマ・サントス、MFジート、CBベリーニ、左SBニウトン・サントス、CBオルランド、GKジウマール。
下段左から、右WGガヒンシャ、MFジジ、FWペレ、FWヴァヴァ、左WGザガロ、右端のおっさんはマッサージのマリオ・アメリコ(ノカウチ・ジャッキじゃないです)
フォーメーション:4-2-4
4アタッカーで世界を魅了したチーム。4アタッカーですぞ!!今では考えられない。

2 Responses to “母国からの賛辞”

  • jumpin says:

    フッチさん、とてもおもしろかったです!
    読んでいてフッチさんの興奮みたいなものが感じられましたよ。
    >ブラジルの選手たちはタクティクスに気を取られてはならない、彼等にこそ楽しくサッカーをする能力が備わっているというのに。彼等にはタクティクスを破壊する個人能力を期待する。
    この部分にとても共感します。
    マドリーではいろいろとそういうものの必要性を感じますが、セレソンの場合は一流JAZZプレイヤーの集団みたいなものなので感性にあふれたプレーを期待します。
    話は変わりますが
    Nmuberにドゥンガの記事が載っていましたがごらんになられましたか?
    好きな選手でもあるからですけど
    ひとつひとつうなづきながら読んでしまいました。
    http://number.goo.ne.jp/soccer/world/643/20051222-f1-1.html
    ご存知だったらごめんなさい。

  • フッチブログ says:

    jumpinさん、お久です。
    あっしもこのエントリーを書きながら、
    超攻撃性 82 → 86 → 90 → 94 タクティクス重視(ゴールを入れられないことを優先)
    98 → 2002 → 2006 攻撃性重視に回帰
    という94年をターニングポイントとした大きなカーブを考え付いたのですが、はたして来年はどうなることやら。
    ナンバー643号は購入しました。もう、表紙に「ブラジル」と書いてあれば、パブロフの犬状態です。笑
    ドゥンガはイタリア、ドイツ、日本での経験で語ってますから、さすが良いこといいますよね。
    ネットでは掲載されていないのですが、あのソクラテスが06年W杯の理想のフォーメーションを書いているのですが、これが面白いのなんのって。黄金のセクステットです。
    それに、CBのポジションにあるレアルの選手を推していることに、度肝を抜かれた!(立ち読みできる長さの文章ですよ)
    その名前どおり、まさに古代ギリシャの哲学者のような発想です。この人は選手時代から尊敬していたけど、ますますブラジル代表の監督として見たい。
    彼なら、ブラジルらしいセレソンを必ず復権できる。ちょっと、クレイジーだけど…

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