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PostHeaderIcon ホビーニョ移籍騒動が解決

ここのところ、ホビーニョの話ばっかりでホビーニョ・ブログになってしまいそうだが、この移籍ケースはブラジル人プレーヤーを取り巻く環境が劇的に変化しているように思えるので、この話題を包括してみたい。


ホビーニョ移籍騒動はコンフェデ杯終了後、ほぼ一ヶ月に渡って繰り広げられた。実際、まだ本人がレアルに合流しておらず、最終サインはされていないし、もしそれまでに大怪我でもしたら(そうならないことを祈る)事の収拾がまたおかしくなってしまうのだが。
移籍の最大の要点は、サントス側がホビーニョとの契約で定めた違約金5千万ドルである。ホビーニョと代理人ヒベイロが一方的にレアルと合意に達してしまったため、サントスはレアルとホビーニョ三者間の交渉に応ぜず、ホビーニョの契約破棄とみなしたのである。ここらの経緯は「ブラジル側から見たホビーニョ移籍騒動とマネーゲーム。」で参照を願いたい。
結局、この綱引きはFIFAの裁定に持っていかれそうになった。憶測だが、サントスは「5千万ドルという違約金を丸々もらう権利があるのかどうか」について再考したようだ。
−ホビーニョというヨーロッパで実績のない選手に5千万ドルを払うクラブはいない。
−ホビーニョ側の契約不履行を主張しても、サントス側もレアルとの交渉に応じていない。
−レアルの最終オファー3千万ドルは、ヨーロッパ市場からみても妥当な金額。
後の記者会見でサントスのテイシェイラ会長はFIFA裁判まで行ってしまえば、5千万ドルという違約金を得る可能性は難しい、というニュアンスのことを言っていたが、確かにそうかもしれない。それは同時にホビーニョが数ヶ月もプレーできなくなることを意味する。ロナウジーニョがグレミオからPSGに去ったケースがこれだった。生涯役員のペレも同じように、サントスの会長に3千万ドルで合意すべきだとアドバイスしたという。
これに加え、ホビーニョ側がもしサントスが3千万ドルのオファーを受け入れてくれれば、そのうちの40%の権利金をもらわない、と譲歩した。これは大きかったし、プレーヤーとしてクラブへの最大の恩返しではないだろうか。
サントスやレアル(それにバルサ)などは、日本のクラブのような経営トップで運営されるのではなく、会長と同レベルに役員会(ソシオ)があり、彼等はサッカー部門を含むクラブ全体の経営を司る。だから、会長は独断である選手を獲得できないし、移籍させることもできない。ちなみに、マンUなどヨーロッパの殆どの金持ちクラブは株式を上場しており、経営トップが独断で選手を獲得することが可能(もちろんチーム監督との確認は不可欠だが)となった。
ホビーニョの移籍に合意した後、テイシェイラ会長は役員会と数時間のミーティングを開き、なぜ3千万ドルで手を打ったのかを細かく説明した。最初は違約金5千万ドルが履行されないことに不満を示した役員ソシオたちも3千万ドルが丸々クラブのものになり、それも早期に入金されることに満足した。役員会はレアルとの合意を覆す権限を持つ。
こういった交渉の裏舞台の認識は重要で、サントスのテイシェイラ会長やペレス会長が独断で移籍を進めたわけでなく、むしろ彼等は役員の意向を汲みながら入念な計画のもと移籍を行っている。南米やヨーロッパでサッカークラブの会長を務めるのは非常に名誉なことであり(大抵、彼等の本業は別にあり、収入が目当てではない)、それぞれの役員たちも次期会長の座を虎視眈々と狙っているのは言うまでもない。
ちなみにフッチブログもあるブラジルのスポーツクラブのソシオである。向うに滞在中に入り、いまでも現地の友人を通して年会費を納め、毎年の経営報告書を送ってもらって目を通し、役員ソシオ選挙にも投票する。会員はたった数千人の小さなクラブだが組織が透明で、入会のとき会長と談話しながらサインし、私の色んな意見を聞いてくれた。また意欲さえあれば、誰でも役員に立候補できると言っていた。
自分が所有者の一人であるスポーツクラブ、ここから立派なチームやプレーヤーが誕生すればもの凄く誇らしいものだ。これは高い“civism”(社会意識)の現われで、自分の生活のためでなく、名誉のために組織に尽くす。ああ、こうすればクラブに対する愛情が自然に生れるんだな、とも実感している。もちろん入場料を払って試合を観るのが基本であるが、別の愛し方もある。
ソシオであることのシビアさは、チーム運営に対する批判はそのまま自分への批判としてハネ返ってくる。南米やヨーロッパのサポーターたちはファナティック(熱狂的)だと言われるが、彼等の多くはクラブ・ソシオであり、自分のかけがえのない名誉のためにチームを応援しているのである。チームが成功すれば自分が成功し、チームが失敗すれば自分が失敗するのである。
ところで、ホビーニョは一銭も貰わないでレアルに移籍するのかというと、とんでもない。ここ数年で3千万ドル、5千万ドル(55億円)などの金額がかすんでしまうようなマーケティング・マネーを彼と代理人は得るのである。そのシナリオはすでに出来上がっている。今月、すでにレアルとホビーニョが大手飲料メーカー、ペプシとのスポンサー契約が取り交わされたばかりで、「レアル、ホビーニョ入団前にすでに一稼ぎ」とブラジルで報道された。
ヒベイロ代理人はヨーロッパ市場に斡旋する選手たちに「ヨーロッパではピッチに立っていなくても金が入る」と言う。つまり、スパイクや用具メーカーなどと世界規模のあらゆるスポンシング契約が破格の金額で結べる。そういえば、ミズノとリバウドのスパイク契約は記憶に久しい。
ホビーニョの移籍金額3千万ドルはデニウソンが97年にベティスとサインしたときの2千6百万ドルを上回り歴代最高額。これまでブラジル人選手の移籍金額はカカの850万ドルという「悪しき前例」(代理人はまたもヒベイロ)のため、ずっと抑えられていた。つまりカカ以下の選手なら800万ドルを下回ることになる(インテルの新星ニウマールは800万ドルぽっちでリヨンに行ってしまった)。この状況を覆す効果があるのが、今回のホビーニョの移籍だとされる。それに違約金も厳守されるようになる。ブラジルのすべてのクラブがテイシェイラ会長の力強い決断に拍手し、感謝している。
ブラジルは国の経済力が増しつつあり、ここ10年でヨーロッパのほとんどの国の経済を抜くと予想されている。以前のように、はした金でトップレベルのブラジル人選手を引っこ抜ける時代は無くなるのである。
一番おもしろかったのは、今週のスペイン現地のdonbalon紙のコラム(スペイン語です)のウェブコラムで「ユンベントス、インテルやマンUを圧倒的な交渉術でやりこめたレアルのペレス会長が、まさか南米のクラブにここまで苦戦しようとは」とあり、「ペレス会長の次の獲得候補が決まった、サントスのテイシェイラ会長だ」と揶揄していた。
サントスの新しいトレーニング・センターを見て回るテイシェイラ会長(白カーディガン)。潤沢な資金あってこその投資である。
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649 Responses to “ホビーニョ移籍騒動が解決”

  • flavancha says:

    フッチさんこんにちは。
    今回のティシェイラ会長とペレス会長のロビーニョを巡る駆け引きによって、フッチさんのおっしゃる様にブラジルやアルゼンチンなど、才能を輸出する側の状況が改善されると良いですね。
    私も欧州強豪クラブの横暴にうんざりしているので(バルサも含む)。

  • jumpin says:

    こんばんわ。
    >ブラジルは国の経済力が増しつつあり、ここ10年でヨーロッパのほとんどの国の経済を抜くと予想されている。以前のように、はした金でトップレベルのブラジル人選手を引っこ抜ける時代は無くなるのである。
    この部分は大きいですね。
    ヨーロッパのサッカーが南米からの選手に多くを頼ってきただけに、チェルシーのような裕福なクラブにはより有利になるでしょう。
    でもそうじゃないクラブは苦戦することになりそう・・・。
    しかしティシェイラ会長、すごく若い人なんですね。
    ペレス会長を悩ましたくらいなので同年代のやり手なイメージがあったのですよ!

  • 久々に日本人。でも、俺何人?

    先週の木曜になんと同じくらいの歳の日本人と会いました。
     
    その日の午前、いつも通り練習を終えて帰ろうとすると、コーチに呼ばれました。
    そこで「…

  • フッチブログ says:

    flavanchaさん
    どうも、ご意見ありがとうございます。
    巷ではフェア・トレードと呼ばれているようですが、
    あくまでもトップ・プレーヤーの話ですがね。

  • フッチブログ says:

    jumpinさん
    ごぶさたしています。
    ホビーニョはまだ21歳にかかわらず、
    現セレソンのフォワード陣では一番の国内タイトル・ホルダーなんですよね(2回)。
    だから、カカやロナウジーニョたちよりも国外移籍額の格が上だったのかな。

  • Goaly says:

    フッチさんこんにちは。(現地時間正午です。)
    ホビーニョの移籍のは何とか終わりましたね。
    正直彼のためにも早く行ったほうが良かったので良かったです。
    ところでフッチさんはどこのTorcedorですか?

  • フッチブログ says:

    こんにちは、Goalyさん、
    私のチームはインテルナショナルです。(Internacional de Porto Alegre, Rio Grande do Sulの)
    生涯のアイドルはファウカン、古くて知らないかな。
    (でも、インテルのソシオではありません)
    赤と白のチームカラーのおかげで、インテル・ファンはColoradoと呼ばれてます。
    あ、そうそうゴール・キーパーはあのタファレルが出身したチームですよ。
    (コメントがダブっていたので、一個削除させて頂きました)

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